「この国では、女性の申告ひとつで即、男性が被疑者にされてしまう。男性の人権、男性の生命の重さについて、真剣に考えていただきたいと思います」
<原田信助さんの国賠を支援する会>が今月21日、東京都千代田区内で開いた「警察の
違法捜査を考える」シンポジウムに出席した原田尚美さんは、女性保護に偏重した警察捜査の問題点を痛切に訴えた。
原田さんの子息の信助さん(当時25歳)は、痴漢の濡れ衣を着せられ、警察の取り調べから解放された直後に自らの命を絶っている。
事件の概要はこうだ。私立大学の職員だった信助さんは'09年12月10日の午後11時頃、JR<新宿駅>の15番線と16番線のホームにつながる階段を3、4段ほど上りかけたところで、すれ違った2人の男子学生に襲われた。いきなり階段から引きずり落とされ、馬乗りになられて殴る蹴るの暴行を受ける。
駅員の通報で、新宿駅西口交番詰めの警察官が現場へ臨場した。ケガの手当も受けさせてもらえず、信助さんがパトカーで連行されたのは新宿署だ。暴行事件の被害者のはずだった。ところ
が、刑事から意外な宣告を受けて、信助さんは愕然とする。「これは、チカンの取り調べだ──」。駅で暴行を加えた男子学生と、行動をともにしていた女子大生が「(信助さんから)おなかを触られた」と主張したからだ。
信助さんは身の潔白と、暴行の被害を必死で訴えた。しかし、刑事は聞き入れようとはしない。痴漢の犯人と決めつけ、自白を迫る厳しい尋問は、翌朝までつづいた。信助さんが帰宅を許され、新宿署を出たのは午前5時45分頃。後日に出頭し、事情聴取に応じることを約束する確約書を書かされたうえでの解放だった。
新宿署をあとにした信助さんは、その足を自宅には向けなかった。新宿からJR<東京駅>を経由して、着いたのは地下鉄東西線<早稲田駅>。そのホームから午前6時40分、線路に飛び込んで自殺した──。
この<新宿駅 痴漢冤罪自殺事件>は、痴漢の被害を訴えていた女子大生が「人違いだった」と主張を覆して被害届を出さず、信助さんよりも先に新宿署から帰っていたことがのちに判明している。また、遺族の尚美さんや支援者らの呼びかけに寄せられた目撃証言によっても、信助さんが暴行の被害を受けていたことは明らかだった。しかし、警視庁は事件から49日後の'10年1月29日、東京都迷惑防止条例違反の疑いで信助さんを書類送検。東京地検は、被疑者死亡で不起訴処分とした。
一方、信助さんが暴行を受けた件については、警察は事件化しようとはしなかった。尚美さんが行った刑事告発を、新宿署は2度にわたって不受理にしている。
左から、原田宏二氏(元北海道警釧路方面本部長)、寺澤有氏(ジャーナリスト)、土屋翼氏(国賠ネットワーク代表)
冒頭の尚美さんの言葉のとおり、女性がひと言「この人にチカンされました」といえば、ただそれだけで相手の男性を破滅させてしまう。そんな<冤罪濫造>の構図が、痴漢事件にはある。
仮に、まったく身に覚えのない痴漢の疑いをかけられたとする。そこで、まず冤罪被害者が強いられるのは、やっていないことの証明だ。この不可能にひとしい“悪魔の証明”の困難性に加えて、捜査・司法機関には「女性は被害者で、男性が加害者」というバイアスがかかった“推定有罪”の前提がある。疑いをかけられた時点で犯人扱い。冤罪を晴らそうとして抵抗すれば、大きな代償を払わされることになる。「無実」を主張しつづければ、保釈は認められず、拷問的に身柄を長期にわたって勾留される。そのうえ弁護士に多額の金を支払って、1年も2年も裁判を争わなければならない。逮捕と長期勾留で仕事はもちろん、社会的な地位や信用も失ってしまう。しかも、その苦闘は「無罪率1%未満」という日本の刑事裁判の現実に阻まれ、ほとんど報われることはないのだ。
<無罪>を争っても結果は<有罪>。そして、痴漢(迷惑防止条例違反)の量刑は軽い。最初から罪を認めていれば、初犯なら、せいぜい略式起訴の罰金刑ですむ。だから「名」と「実」を天秤にかけ、やってもいない罪を認める<虚偽自白>をしてしまう冤罪被害者も少なくない。
ろくに客観的な証拠がなくても、被害を受けたとする女性の主張だけで<有罪>となることも多い痴漢事件。その冤罪をまねくのは、勘違いや誤認だけではない。<冤罪濫造>の構図を背景に、故意の陥れや示談金目的の恐喝の手段として、事件がでっち上げられることもあるのだ。
<新宿駅 痴漢冤罪自殺事件>では、当事者の信助さんは死亡している。そして、もう一方の当事者である暴行をはたらいた2人の男子学生と、痴漢の被害を主張した女子大生については、警視庁が素性を明らかにしていない。東京地検も、痴漢(東京都迷惑防止条例違反)事件の不起訴記録を非開示としており、いまのところ事件の真相は“藪の中”だ。しかし、人通りの多い駅の階段で、すれ違いざまに腹を触られたという女子大生の主張は、痴漢事件とするにはシチュエーションがあまりにも不自然。痴漢の常人逮捕(一般人による現行犯人逮捕)を装って、通りすがりの弱そうな男性をねらった通り魔的な暴行事件だったのではないか、という疑いもありそうだ。
この事件をめぐっては、母親の尚美さんが今年4月に「息子は違法な取り調べによって、精神的苦痛を受けて自殺した」として、東京都(警視庁)を相手に1000万円の国家賠償を求めた訴訟を提起している。真実を明らかにし、亡き信助さんの名誉を回復するための裁判だ。8月30日には、第2回目の口頭弁論が東京地裁で開かれるが、訴訟を通して事件の真相究明につながる情報を警視庁から引き出せることに期待したい。
〔原田尚美さんのブログ〕 目撃者を探しています!平成21年12月10日(木)午後11時頃新宿駅での出来事です。
信助さんは痴漢の汚名を着せられて非業の死を遂げたが、<痴漢冤罪>と同様に過剰な女性保護が<冤罪濫造>の温床となっている別の問題でも悲劇が起きている。
中部地方の男性公務員の妻は、3年前に子どもを連れて家を出ていた。以来、自分の子に会えずにいた男性は昨年、家出中の妻から離婚訴訟を起こされる。その主張は、男性からDV(ドメスティックバイオレンス)の被害を受けていた、というものだった。日頃から子どもに会えないことを嘆いていた男性は、裁判の行方を悲観してか、結審を目前にした今年の5月に自殺している。
<DV冤罪>は家事事件として争われることがほとんどであるため、刑事裁判で罪に問われる<痴漢冤罪>のように表面化はしにくく、その存在はあまり社会に認知されていなかった。だが、潜在被害者は想像以上に多い。この<DV冤罪>が、<痴漢冤罪>と異なるのは、十中八九が故意にでっち上げられるという点だ。
虚偽のDV被害を主張する目的は、子の親権の獲得を含め、有利な条件で夫と離婚することにある。そして、<DVでっち上げ>を仕掛けるのは、妻側の背後にいる女性人権団体や弁護士であることが一般的なパターンだ。8月10日、兵庫県に住むB子さんから詐欺罪などの疑いで刑事告訴された佐藤功行弁護士(兵庫県弁護士会)のケースでは、NPO法人と連携した“別れさせ屋”の実態が明らかになっている。
<DVでっち上げ>が発覚するのは、きわめて稀なことだ。妻側が主張するDV被害の虚偽を立証するには、<痴漢冤罪>とおなじように夫の側が“悪魔の証明”をしなければならない。そこに漬け込んで金儲けのタネにし、<DV冤罪>を濫造しているのが、冤罪から市民を守るべき立場の弁護士なのだ。
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