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2007/11/08

「神奈川県警」取調室で「拳銃発砲」被疑者死亡の『戸部署事件』から10年

10年前の今日、警察署の取調室のなかで、取り調べ中の被疑者が銃弾を受けて死亡するという前代未聞の事件が起きている。

5003 横浜市内の金融業・柳吉夫氏(当時55歳)は、銃砲刀剣類所持等取締法違反の被疑者として、神奈川県警戸部警察署に逮捕・勾留されていた。事件が起きた'97年11月8日、署内の留置場から身柄を出された柳氏は、刑事2課の2号取調室で担当の巡査部長から取り調べを受ける。そして午後2時50分ごろ、戸部署に押収されていた証拠品の拳銃から発射された銃弾に倒Rossi れたのだ。

左胸に命中した銃弾は、肺と心臓を破裂させていた。意識不明の状態で、柳氏は「横浜市立大学医学部附属浦舟病院」に搬送されたが、同日午後3時18分ころに死亡。

<取り調べ中、短銃自殺>

Asahi071109 翌日の朝刊に載った小さな新聞記事で、私は事件を知った。

現場は警察署内の取調室。勾留中の被疑者が、警察官の目前で拳銃に実弾をこめて発砲するなどということは、常識的に考えてあり得ない。ところが警察は、ろくに捜査も行なわず、事件に終止符を打とうとした。県警監察官室が、警察庁と関東管区警察局に対して、「留置被疑者の自殺」として報告書を提出したのは、事件からわずか8時間後のことだ。そして当日のうちに、はやばやと報道発表を行なっている。

「自殺」とする県警の事件処理に〝隠蔽〟の疑いを抱いた私は、柳氏の遺族を探した。

Kenan 柳氏には、離婚した元妻とのあいだにもうけた一人娘がいた。横浜市内に住むA子さん(当時24歳)。彼女が戸籍上の、ただひとりの遺族だった。事件から19日後の11月27日、A子さんのもとを訪ねた私は、柳氏の死因が「自殺」ではない可能性があったことを示唆する証拠を手にする。それは、一枚の『死体検案書』だ。

前胸部より背面に至る26cmの銃弾創、左心室に貫通創──。

柳氏の遺体を解剖した監察医が作成した『死体検案書』の「死亡の原因・解剖」の欄に書かれた主要所見に、私は注目した。細身の体格だった柳氏のGendai980131b Wgendai980131a 胸に、創道の深さ26センチの銃創。これは、銃弾が水平に撃ち込まれたのではないことを意味する。その射入角度によっては、「他殺」や「事故」の可能性が高くなる。また、A子さんから、柳氏が左利きであったことを聞いた。左利きの者が、自分の左胸に銃口を向けて引鉄を引くのは不自然だ。

私は『戸部署事件』の調査をはじめた。

Kanagawapd 県警本部、戸部署、担当検事、救命医療を施した「浦舟病院」の医師、司法解剖を行なった監察医、柳氏が戸部署に勾留中に睡眠薬を処方した医師、保険会社、柳氏の内妻や友人知人などなど、ひととおりの関係先を取材している。その結果、柳氏の死因が「自殺」ではなかったのではないかという疑いは、さらに色濃くなった。

Gw 銃創の射入角度が下方向に45度で、射入口が自殺を証明する「接射」の特徴でない可能性がある。使用された拳銃は38口径のリボルバーだったが、遺体の左手のひらに火傷やススの沈着などが見られない。これらは、「柳氏が拳銃を両手で包み込むようにつかみ、銃口を自分の胸に押しつけて撃った」とする警察の説明と矛盾していた。

さらに、柳氏は勾留中に「ハルシオン」などの薬物を大量に投与されている。事件後には、柳氏が銃弾に倒れた現場に居合わせた唯一の人物でもある取調官の巡査部長らが、柳氏が加入していた保険会社に保険金の額を問い合わせるなど、戸部署員の不審な動きも数多くあった。

ところが県警は、事件を再調査することもなく、事件後1ヵ月あまり経った12月25日、関係した6名の警察官を「戒告」「訓戒」「所属長注意」などのきわめて軽い処分に付すことで、一方的に「自殺事案」として終結させたのだ。

A子さんは'99年2月17日、神奈川県(警察)を相手に920万円の損害賠償を求める訴えを、横浜地方裁判所に提起した。父・吉夫氏の死の真相を究明することが訴訟の目的だった。

この裁判の判決が出たのは、'02年11月22日。当時、新聞・テレビが大きく報じたので、記憶に残っている方もも多いだろう。

事故現場及び証拠品について、(県警は)事故の痕跡を完膚なきまでに消し去り、証拠品に手を加え、不公正・不公平で偏頗な捜査を行ったものであって、これらの事情を総合してこれを経験則・論理則に従って判断すれば、本件事故において、本件けん銃の引鉄を引いた者は、被疑者である亡吉夫ではあり得ず、同人の取調べに当っていた巡査部長であったと推認することができる──。

【判決速報】横浜地裁;自殺でなく取り調べ中の巡査部長が拳銃の引き金を引いたと認定(02年11月22日

99b Untit28 横浜地裁は、戸部署員による「誤射殺」を認めたうえで、賠償金500万円の支払いを被告側(神奈川県)に命じ、原告側(A子さん)の全面勝訴となった。

しかし、被告側は判決を不服として、ただちに控訴。東京高等裁判所で争われた2審では、'04年4月28日の判決で横浜地裁の1審判決は取り消され、A子さんの逆転敗訴となった。その後、A子さんは最高裁判所に上告したが、'05年9月2日に棄却。「柳氏の死因は自殺」とした2審判決が確定したのである。

民事訴訟と平行し、A子さんは'00年3月9日、事件時の取調官だった巡査部長に対する特別企務員暴行陵虐致死被疑事件として、横浜地検に刑事告訴していた。しかし、'00年10月27日に検事が不起訴処分とする。

A子さんの申立てを受けて、『横浜検察審査会』は'04年10月14日に「不起訴処分不当」を議決した。その議決の理由は、以下のようなものだった。

(1)被疑者は、柳がけん銃をビニール袋から抜き取り実包を込めるまでは、調書の作成に集中していて気がつかなかったと主張しているが、柳の当日の調書を見ると、問題の箇所は、走り書きでほんの59文字が記載されているだけである(被疑者の平成9年11月8日の供述調書に基づく)。

この短時間に、全く被疑者に気づかれずにビニール袋からけん銃を取り出し、実包を込めるのは不可能と思われるのに(ビニールの音などがどうしてもしてしまうのに加え、音をさせないようにけん銃を操作すると、通常より時間が掛かるはずである)、検察官が不自然でないという根拠は、検証に基づいたものであるのか疑問である(模擬検証でも,多数の審査員が音を察知できた)。

(2)実包の入ったビニール袋の実包を抜き取った穴の形状がどのようになっているか、またどのように開けられたかの鑑定がされていない点や、厚さ0.03mmのビニール袋から同タイプの実包を抜き取るには、模擬検証で実際に行ってみたが、穴の開口部は、証拠写真のような形状にはならない。

また、ビニール袋の穴の周辺には、実包を抜き取った際に力が加わるため、鮮明な指紋が付着したはずであり、検察の主張する自殺鋭の重要な証拠となるにもかかわらず、この指紋採取がされていない。

(3)被疑者の供述中、柳の拳銃の持ち方が、とっさのことなのに具体的すぎる点や、弾が入っていないと思っていたのであったら、大きな叫び声を上げたり、慌てる必要はないはずで、「壊されるかと思った」と述べているが、銃の構造に熟知している被疑者が、簡単に壊れると思うはずはなく、供述の信ぴょう性に疑念がある。

(4)証拠品のけん銃を取調室に残したまま佐藤警部補が電話のために離席したとあるが、真実離席したかどうか、電話の相手方である川口係長の供述で裏付け捜査がされていない。もし、離席していなければ、検察の主張する自殺説に大いに疑念が残る。      

(5)告訴状に記載されている、ロシアンルーレットによる殺害の情報を究明していない。

Tobe だが、それでも横浜地裁は、巡査部長を再び不起訴処分とした。

法的には「自殺」が確定したとはいえ、それが真実ではない。『戸部署事件』には、権力の壁に阻まれて解き明かせなかった謎と疑惑が残されたままになっているのだ。

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「Friday03.07.25.pdf」をダウンロード

柳氏のご冥福を、心より祈る。

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コメント

日本の警察、司法、裁判の裏側が如実に出た「気分が悪くなる」案件ですね。
私も柳さんのご冥福を心より祈ります。
津田先生の足と頭脳をフル回転させた取材ぶりには脱帽する限りです。

投稿: タク | 2007/11/09 17:45

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