元全日本女子バレーボール選手の永山恵美子氏が社長を務める『EMIKO.LLC社』と『EMIKO.フィールド社』の経営陣に対して、詐欺罪の疑いで大阪府警に告訴状が提出されていたことを、27日の産経新聞朝刊(大阪本社版)が報じた。
両社は、大阪市内に飲食店やエステサロン(現在閉鎖)などを経営する会社だったが、'05年から翌年にかけて『E&D』(坂口大学代表)と『M&M』(高橋真人代表)という2つの投資事業有限責任組合(現・匿名組合)を組成し、「年利6割」の高配当をうたって出資者を募りはじめていた。このファンドは、700人以上の出資者から約73億円を集めたとされる。しかし'07年9月以降、配当の支払いが停止し、満期元金の償還もできなくなって破綻。今年4月のファンド運営者側の発表によると、記録上で判明しているだけでも、52億1000万円もの元金が償還されていないという。
巨額の投資トラブルでありながら、被害が顕在化するまでに時間がかかったのには理由がある。出資金を集めた張本人である永山氏や坂口代表らファンド運営者側が、刑事告訴や民事訴訟を起こさせないよう、巧妙に出資者をまるめ込んできたのだ。その誘導術は、被害者の心理を知りつくしたプロ的なものだった。
ファンドが破綻すると、出資者が最も恐れるのが運営者の雲隠れだ。状況が見えないと、出資者の不安は高まる。その点、E&DとM&Mの対応は素早かった。両組合が、債権者(組合員)を対象にした「説明会」を最初に開いたのは、配当の支払いが停止してから2ヵ月後のことだ。昨年11月に大阪市内で開催している。この迅速な対応で、いったん出資者の不安は和らぐ。
しかし「説明会」といっても、破産管財人などが開く債権者集会ではないし、被害者側の弁護団が主催する被害者説明会でもない。あくまでファンド運営者側が開く集会だ。手前勝手な言い訳に終始することは、はなから目に見えている。そこで永山氏や坂口代表らは、もっともらしい肩書きの〝第三者〟を介入させることで、公正な解決をアピールしたのだ。
その〝第三者〟は、「説明会」の開催を通知する「組合員説明会開催のお知らせ」と題する文書に、はじめて登場する。「事務局」運営と事実関係調査を担当するという桃井朋成氏なる人物と、「契約弁護士」を名乗る中田良成弁護士(葵法律事務所)の2人だ。「事務局」とは、いったい何を目的にしたものなのか、また「契約弁護士」とは誰と契約しているというのか。重要な説明はいっさいないまま、「組合員説明会開催のお知らせ」の末尾には、つぎのように書かれていた。
混乱と遅滞を防ぎ、組合員の皆さまへの利益を守る為、組合担当者や利害関係人への個別問い合わせはお控え下さいますよう、お願い致します。現在、既に本格的な調査に入っており、皆様が個別に対応されますと、投下資金の保全に影響することもございます。
ファンド運営者に対するクレームや、取り付け騒ぎを防ごうとする思惑が透けて見える。だが、債権者は誰しも、資金の回収を第一に考えるものだ。「皆さまの利益を守るため」という詭弁は、破綻ファンドの出資者の行動を縛るには、ことのほか効果があったに違いない。
桃井氏は、訴訟関連調査を業とする『トライネオス・コンサルティング』(現・神戸市兵庫区)という事務所の代表者だが、じつは中田弁護士とともに、ファンド運営者側に雇われた人物だったのだ。その活動が、「運営者の利益を守るため」であることは容易に知れる。ところが、桃井氏と中田弁護士は、出資者側の代理人として動きはじめた。
「説明会」の進行は、桃井氏らファンド運営者代理人が取り仕切っている。その席上で、「私どもは、今まで常に被害者側、消費者側の立場に立ち『加害者側』という立場で受任したことは一度もなく、今後もそのようなことはありません」と、桃井氏は自分たちが出資者の味方であることをアピールした。桃井氏と中田弁護士が、ファンド運営者から相談を受けたのは、「説明会」開催のおよそ1ヶ月前。受任するにあたっては、「加害者側」に加担することになるのではないかと懸念して、当事者への面談や調査を重ねたうえで、運営者側の「逃げずに、組合員に協力し、事態の収拾をはかりたい」との強い思いを受けて判断したという。が、そんなことは、常識では考えられない。ファンドが破綻すれば、運営者と出資者は利害が対立する立場になる。「債務者」と「債権者」、もしくは「加害者」と「被害者」の関係だ。ところが中田弁護士は、運営者側の代理人でありながら、利益が反する出資者の代理人となったのだ。任意だが、「説明会」に出席した出資者の8割以上の人が、委任状を提出したのだという。そして、得体の知れなかった「事務局」は、「被害者の会」に相当するものだった。その運営担当が、これもまたファンド運営者側に雇われた桃井氏だ。しかも「事務局」の運営費は、出資者に負担を求めたのである。
それは、まさに「加害者の加害者による、加害者のための被害者の会」だった。
いくらなんでも、そんな異常な構図に出資者が気づかないわけはないのだが、そこは〝第三者〟の弁を利用したトリックが効いていたようだ。出資者への報告は昨年11月の「第1回説明会」に始まり、説明会と書面の送付をあわせて今年8月までに計5回行われている。その報告のベースとされたのは、中田弁護士と桃井氏の調査によるデータだった。その〝中田・桃井報告〟によれば、永山氏や坂田氏らが組合で出資者から集めた資金は、東京都台東区の資産運用会社『ジャルコ社』(林恒夫社長)に、運用を委託していたのだという。さらにジャルコ社に送金された資金のうち、約9億5000万円が林社長の知人4人に再委託されていた。そして、出資者が払い込んだ出資金は、ほとんど全額がジャルコ社へ送金されており、ファンド運営者は利得していない。というのが〝中田・桃井報告〟の骨子だった。
つまり〝中田・桃井報告〟は、永山氏や坂口・高橋両組合代表らファンド運営者側は、ジャルコ社の林氏が再委託した4人にだまされた被害者という位置づけをしていたのである。
林氏から再委託された9億円余りの資金について、中田弁護士らは「運用されていた実態はなく、詐欺まがい」と犯罪性の存在を示唆し、厳しく批判してきた。にもかかわらず、警察への告訴や訴訟を希望する出資者の意見には、「関係者に協力を求めにくくなり、返金交渉も進まなくなる」などの理由を挙げて、反対しつづけててきたのだ。その結果、中田弁護士が着手してから1年あまりを経て、わずか2500万円ほどの資金しか回収できていない。
出資者への元金返済を最小限に食い止め、法的トラブルを封じてきた「加害者の加害者による、加害者のための被害者の会」の活動が、このファンドの悪質性を象徴しているのではないだろうか。
弁護士職務基本規程の第28条第3号には、「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」について、その職務を行ってはならない、と規定されている。
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