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2009/10/15

〔光市母子殺害事件〕実名ルポ本『福田君を殺して何になる』が出版差し止めを申し立てられた本当の理由

Hukuda001 <光市母子殺害事件>で死刑判決を受け、上告中の被告男性(28歳)の実名や顔写真などを掲載した単行本『福田君を殺して何になる』(インシデンツ刊)が、出版の差し止めを求められた仮処分申請の第1回審尋が13日、広島地裁であった。答弁書の準備が間に合わないことを理由に、著者と出版元は欠席。19日に開かれる第2回目の審尋で主張する予定だという。

仮処分の申立人は、本書に実名を記載され、タイトルにもなっている<福田君>だ。その代理人となった弁護団の本田兆司弁護士は、6日に広島市内で開いた記者会見で、「元少年は著者と接見した際、『事前チェックをした上で、場合によっては実名の記載を了解するかもしれない』と告げたが、その約束は守られていない」と述べた。しかし一方、おM8531413 なじ日に東京都内で会見した著者の増田美智子氏と出版元『インシデンツ』代表の寺澤有氏は、「今年3月に接見した際に、本人から実名掲載の承諾を得ている」として、弁護団の行為について「報道の自由に対する挑戦だ」と批判した。双方の言い分は、真っ向から食い違っている。

出版差し止めを求める法的根拠はいうまでもなく、少年(事件当時)事件の実名報道を禁じた少年法である。『福田君を殺して何になる』出版をめぐるメディアの報道も、その論調は、少年法の規制に反した実名を掲載した出版社側に対して批判的だ。

しかし、報道された記者会見での両者間の主張からは、実名表記の是非についての争いがみえてこない。とくに弁護団の説明は、実名での出版そのものに意義を唱えるのではなく、「事前チェックの約束違反」ばかりを問題にしているように聞こえる。

そのような〝約束事〟はあったのだろうか。出版元代表の寺澤氏に聞いてみた。

「(約束は)していません。それに、事前チェックを求めてきたのは福田君本人ではなく、彼の弁護士です。報道で『福田君を殺して何になる』が出版されることを知った本田弁護士が、電話で問い合わせてきました。だから今月4日の日曜日に、わざわざ広島まで足を運んで趣旨を説明したんです。すると本田弁護士は『出版前にゲラ刷りを見せろ』と要求する。『それはできない』と断ったら、『事前に内容をチェックさせないのなら、出版の差し止めを申し立てる』と言われたんです。『そのような脅しに応じるわけにはいかない』と、私は事前チェックの要求をきっぱりと断って帰京しています」

<福田君>の弁護団が、出版差し止めの仮処分を申し立てたのは、その翌日のことだった。寺澤氏の話が事実だとすれば、〝事前検閲〟に応じなかったことに対する報復ともとれる仮処分申請だが、はたしてそれは<福田君>の意思を反映したものだったのだろうか。その答えは、本書を紐解けば見えてくる。

面会たのしみにしてるよ。あけとくから。でもお金かかるじゃん。どうしようか。美智子さん 広島に知人いる? いなかったら、ぼくの方でがんばってみるよ。とまる所とか。

Hukuda 本の冒頭に掲載された<福田君>から著者の増田氏に宛てた手紙には、みずから積極的に面会に誘うメッセージが記されていた。この手紙をきっかけに、増田氏は面会取材を望むようになり、<福田君>と文通をはじめる。

ところが、最初の手紙から約ひと月後、彼女のもとへ<福田君>の弁護団長の本田弁護士から一通の封書が届く。その書面には、<福田君の依頼を受けて>と前置きをして、こう書かれていた。

福田君は、貴方の福田君への面会の申出をお断りします。また、福田君及び弁護団は、今後、貴方から福田君へ手紙を出すことも行わないように申入れます。

増田氏に対して好意を示し、<面会たのしみにしてるよ>と手紙に書いた人物が、唐突に「面会と文通の拒否」を弁護士に依頼するとは考えにくい。事実、本田弁護士が通知した以降に、増田氏は25回も<福田君>と接見しているのである。

このエピソードをはじめ、本書の6章「弁護士」には、弁護団による徹底した取材拒否と<福田君>との交通の遮断に遭った取材の経緯が書かれていた。そして同章は、こう締めくくられている。

取材拒否や今枝弁護士解任で弁護団が守ろうとしているのは、福田君ではない。とにかく他人から批判されたくないという彼ら自身なのである。

<福田君>の弁護団が本書の〝事前検閲〟を求めた理由は、この部分にあったのではないだろうか。

<福田君>を面会取材して報道したメディアが、弁護団から制裁的な措置をとられたことは過去にもあった。

'08年4月22日、広島高裁が死刑判決を下した差し戻し控訴審判決後に開いた記者会見で、弁護団は日本テレビと同系列局の広島テレビの出席を拒否。会見場から締め出されたNNN系列局だけが、会見の放送ができないという異常な事態となった。

その理由は、広島テレビが判決前日の4月21日、広島拘置所に収監されていた<福田君>と接見。その取材の直後、同局は弁護団から放送前に取材内容を教えるように求められ、その要求に応じない場合は記者会見への出席を拒否する旨を告げられていた。しかし、広島テレビ側は、放送前に取材内容を第三者に伝えることは取材倫理に反する、などとして弁護団の要求を拒否。その結果、会見場の〝出入禁止〟とされたのだ。

この件では、日本テレビと広島テレビが、「正当な報道活動に対する重大な侵害行為」とする抗議文を弁護団宛に送っている。

猛烈なバッシングの嵐に晒された経験のある弁護団だけに、マスメディアを警戒し、取材活動に過敏になるのも理解できなくはない。また、世間から批判されることを覚悟で、決しての割の合わない凶悪事件の加害者の弁護人を引き受けた勇気は評価されるべきだろう。しかし、ジャーナリストやメディアの取材・報道の自由を不当に制限するのでは、国家権力が行う言論統制や情報操作と、やっていることは同じではないのか。

実名報道には賛否両論あるだろうが、「安易に(実名を出すことの)一線越えた」と批判する前に、まず本書を一読するべきだろう。

「インシデンツ」ウェブサイト

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